センチメンタルの涅槃

読書、漫画、映画感想用。中二病と喪女をこじらせた24歳。吾妻ひでお、山田花子、真造圭伍、九井諒子などが好きです。ボーイズラブの話多し。

ダメ人間・石川啄木と献身不憫な金田一京助のやおいが読みたい

はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢっと手を見る

 

という憐憫を誘う赤貧の歌なんか詠んでいるし実際に27歳で夭折しているから、貧困に喘ぎながらも一心に短歌を紡ぎ出した清貧で親孝行で不遇の苦労人、というイメージが想起されるけれど、実際は、ようやく手にした仕事も遅刻、欠勤は当たり前、不満があればストライキを起こしたりして長続きせず、下宿先からは追い出され、友人に借金をしては踏み倒し、

そんな風に至るところから借金をしまくっているのに、

 

一度でも我に頭を下げさせし人皆死ねと祈りてしこと

(一回でも俺に頭を下げさせた奴ら全員死ね! とか思っちゃう)

 

みたいな歌を詠んだり、借りた金はというとすぐ遊女遊びに使ったりして散財するので貧乏だったのだ、というのは一部には有名な話で、

つい最近も、啄木のダメ人間ぶりを語る、こんな記事がYahoo!ニュースになっていたりした。

 

会社をサボってエロ三昧…ダメ男・石川啄木「ヒミツの日記」がおもしろい 清貧・不遇のイメージも崩れ去る(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース 

zasshi.news.yahoo.co.jp

 

私は、何か突出した一つの才能があるけれどそれ以外ではクズの極みみたいな堕落系天才やそういう人のエピソードが結構好きなので、石川啄木のファンなのだが、6、7年前くらいから常々、そんな、歌才はあるけれど他の部分ではダメオブダメ人間、石川啄木を金銭面精神面で支え続けた親友(兼・一番の金づる)金田一京助とのやおいが読みたいと思っていた。

 

金田一京助、というのはアイヌ語研究や『明解国語辞典』の編集で有名、子どもや孫も言語学者として活躍しているあの金田一京助である。(名探偵金田一耕助の名前の元ネタでもある)

金田一は、啄木の同郷の四つ年上の先輩で、学年は違うが同じ高等小学校、中学校に通い一緒に文芸について語り合ったり短歌を作ったり同人をやったり懇意にしていた。金田一が上京し東京に職を得た後も、金に困った啄木が完全にだめんずヒモのような形で下宿先に転がり込み、同棲同宿したりしている。

定職はあるにせよ学校を出たばかりで自分も金持ちというわけではなかった金田一がかろうじて、ひいひいと家賃を工面しているのに、啄木は、着物を質に入れた金を二日くらいで使い果たすわ、突発的にでかい花瓶と花を買ってきたりするわで非常に呑気なものだが、二日として金を握っていられない啄木を追い出すわけでもなく、甲斐甲斐しく世話をしてやっている金田一も金田一で大概アレで、

啄木にあまりにも金を貸したり何やり、時には家財道具を売ってでも工面してやっているので、金田一京助の息子の春彦が、

石川啄木というのは(大泥棒)石川五右衛門の子孫ではないのかと思っていた」

という述懐をしているほどだが、この、啄木の親友(兼・金づる)の超お人よし金田一京助が啄木について書いた本がまたもう、かなり強烈なのである。

誰かが、「日本一語彙力の高いBL」と称していたがその通りだ。

 

私は、高校生のときにたまたまこれを読み、五ページに一回くらいのペースであまりの萌えにのた打ち回るほどだった。

因みに、Amazonの一番上のレビューを書いているのはこれ、興奮が抑えきれていない私である。

 

新編 石川啄木 (講談社文芸文庫) 金田一 京助 

 

まえがきで、著者である金田一京助が、

「君と別れて二十有三年、図らずも今、身辺の繋累を伊豆の山に隔て、相模灘の初日影に心の雲を払い、遥かに都門の客を謝してひたぶるに君を偲ぶ(中略)幾度か声を放って空林に泣きまろび、幾度か声をのんで暁の枕をうるおし、啼泣嗚咽、三日三夜、ただただ君を思いつづける」

西野カナも真っ青の、あなたに会いたくて会いたくて震える的マインドのこもった文章を書いていたり、祖父同士の因縁を引っ張ってきて運命因果論的に二人の関係を語っていたりする初っ端からパンチがききまくっているが、出会いのエピソードからしてもうやばい。

 

二人が初めて出会ったのは金田一が十四歳、啄木が十歳の頃であった。

この年、高等小学校に上がった啄木は、入学式の日に年上の先輩に連れられて学校にやって来たのだが、この先輩が金田一の友人だった。

六、七歳くらいの子どもに見えたので、てっきりどこかの尋常校に入る子が途中まで連れて来てもらっているのだろうとばかり思っていた金田一は、友人が、「この人は、幼稚園へ上がるのを、間違って此処へ来た」と冗談で言うのも真に受けているが、そんな童顔系啄木(本名・一くん)に最初っからモエモエなんである。

 

以下、原文通り。

ファースト・インプレッションについて。

「見たところでは、六つ七つの子供と見違えそうな、如何にも子供らしい、小さな、左右の頬ぺたと、おでこが、柔かに盛り上って、ゴム人形の面立ちそっくりな、併し牛乳色の肌細な、くるくるっと円い目をしばたたく可愛らしい子供だった」

 

でこの時、一くんは、上級生たちに、乳母入らずからやっと放れたとか童顔をからかわれたり、からかわれた一くんは、負けず嫌いなので怒って飛び掛かったり殴ったりしているのだが、しばらくその様子を眺めていた金田一にある欲望が芽生え始める。これも原文通り。

 

「誰かへかかって行くので、私の前をすれすれに横ぎる途端、それまで純然たる傍観者でいた私も、何かやっぱりからかいたくなって、と云うよりも、私の指がむずむずしてさわって見たい誘惑に乗って、ぽっちゃりとしたその両頬の上に、おっかぶさるように載っかっている白い丸いおでこへ、ちょいと人差指の指頭をさわった。同時に、

『此のでんぴこ!』(おでこの意)

と覚えず云ったものだった。」

 

指がむずむずしてさわって見たい誘惑て!!!

よくこれ包み隠さず書いて公表したよな金田一京助は!!!!

 

で、そんなモエモエしている金田一京助は、この後、怒った啄木に追い詰められ壁ドンされ腹などを複数回殴られているのだが、可愛いという気持ちは変わらないらしく、後に、中学校に上がって啄木が「明星」を借りに金田一の家を初めて訪ねてくる場面の記述でも、

 

「小さい人、可愛い人、ぐらいにしか思っていなかったその人の口から、明星を貸してくれまいか、という言葉を……」

こんな調子である。

 

金田一は後に、借金をいつも快く貸してやるほか、いつも家主にとりなしているにも関わらず早く払え払えとあまりにも催促されているので可哀想に思った啄木の家賃分を、代わりに先に払ってしまい、たまたま自分の分が少し足りなかった時、しかし待てないと下宿先に怒られたので、

自分は遅れたことなどないのに、これほど頼んでいるのに、と憤慨し、大事にしていた蔵書をほとんど売り払ってまで家賃分のお金と引っ越し資金を作り、啄木と住める別の下宿先を探し回ったりなどしている(その間啄木は留守。啄木のせいなのに)のも、

彼の才能を買っていて応援したいという気持ちや、そこには文学青年の道を諦めて言語学研究に進んだ自己が果たせなかった夢の幻想を見たり、というのもあっただろうしその自分はどうしても啄木みたいにはなれないという破綻的天才への劣等感と憧憬の入り混じる複雑な心境もそれはそれで萌えるのだけれど、やっぱり10パーセントくらいは、「可愛いから」なんじゃねえか? という気がしている。

(これについては、『石川くん』枡野浩一も同じ様なことを書いている)

  

    

 

しかしとはいえ、啄木と金田一がこうした親密な関係だったのは、結構有名な話だ。

なので、夏目漱石の場合は、『先生と僕 1‐夏目漱石を囲む人々‐』 のような4コマ漫画が出ているのに、この二人を漫画界隈、BL界隈が放っておくのは、おかしいと思っていた。

むかし、谷口ジローが描いた、『『坊っちゃん』の時代』 にも啄木のエピソードはあるのだけれど、金田一との関係が主軸というわけでもないし。

ら、実はあったらしい。

 

帝都万華鏡 桜の頃を過ぎても (講談社X文庫ホワイトハート(BL))

  

名前を変えてはいるが、明らかに、啄木と京助がモチーフである。

私は長年待ち望んでいたものが読めるのかと、ワクワクしてページを進めたが、違うのだ。

違うんだ!!!

俺が読みたかったのは、こういうんじゃないんだ!!!!

 

この本では、啄木は、真面目で清貧で家族思いな苦学生として設定されているし、京助は金持ちで美貌のクールツンデレ系として登場する。

別にモチーフだから史実通りにやる必要はないしあくまで勝手な言い分であることを断っておくが、私個人の趣味としては、そうじゃないだろう!と思う。

 

啄木の魅力は、仕事は長続きしないわ妻子放ったらかすわ(ちなみに自分の結婚式も出席せず放ったからして人の金で旅行したりしている)、借金魔だわ、人の金借りて遊女遊びするわのクズオブクズにも関わらず、でもやっぱり皆、何故か金を貸しちゃう不思議なチャーミングさにあるのではないか 。

例えば、金田一は、しかし、他の人の事は知らないが、自分は啄木から直接、金を貸してくれと請われたり頭を下げられたりしたことは無い、と書いている。

以下一例を出すと、

啄木曰く、風邪をひいて寝込んでいるときに財布を逆さにしてみたら十銭と五厘が出て来た。この全財産でハガキを買い、最後の一枚をどうしようかと思ったときに、大隈重信に出すことにした。“あなたのような世界の大政治家と私のような無名の一小詩人と、一堂に会してお話をしたら、どんなに愉快でしょう”

したら、ちゃんと返事が来て了承してくれたのだけれど……

 

金田一が驚いて、「行くの?」と訊ねると、「でももう電車賃がないんだもん」とくる。

先程の話からすれば全財産をハガキで使ってしまったということなので、それはその通りだ、と思った金田一は、素直にお金を貸してやるのだが、大体いつもこんな感じで巻き上げられていたらしい。

金田一もさすがに、騙されているのを分かってはいるだろうけど、何となく、面白がって乗ってあげているのだろうなあという気もするし、やっぱり啄木は放っておけないチャーミングな人だったのだろうなあ、と思えるエピソードだ。

 

そんな、啄木大好き、

「米の飯見たように、お互いが、もうお互の生活から離れられない存在になっていた。いわば、石川君の不幸が私の不幸であり、私の幸が石川君の幸という風で、全然一つものの各半分ずつのようなものになっていた」

と高らかにあけすけなくシンメ宣言までしている金田一京助(ただ、『新編 石川啄木』の中で、俺は啄木の一番の親友づらしてるけど、啄木にとっては単に都合の良い金づるだったのかも……と不安がったりもしている。萌え)

だが、一方の石川啄木はどうだったのか? というと、

 

著書を金田一に送ったのに向こうが忙しいせいで全然感想が来なくてあいつとは絶交だ!!! とキレまくったり、

同棲時代を振り返った小説で、「女中たちは二人を普通(ただ)の友達には見ていなかったらしい」「相互の時間を無駄に食っているのに(※同棲当初は同じ部屋だったのだがあまりに喋りすぎて仕事に支障が出たので後に別の部屋に変えている)、やっぱりこの関係を変えることができなかった」「外から帰って来ても彼の顔を見ないとペンが執れなかった」みたいなことを書いていたり、

京助をもじって娘に京子とつけたり、

結構な仲良しの一方で、

 

しかしでもやっぱり、金田一の安定した生活や地位への嫉妬や劣等感と世話になりまくっている引け目もあったのだろう。

 

たまに、金田一が啄木にしか言ってなかった秘密を暴露した小説を書いてしまって一回金田一を怒らせたりしているが(でも、あれは自分の心が狭かったと後悔している辺りに金田一のお人よしっぷりが出ている)、

しかし、死ぬ間際に呼ぶのは、呼んでくださいと繰り返したのは、やっぱり金田一京助その人だったのだという。

啄木の側からも、尊敬と、裏返しとしての嫉妬と劣等感と引け目と、けれど離れられない深い関係が推測されるのである 。

 

こういうのだ。啄木と金田一の関係は、こういうのなんだよ!!

だから啄木は駄目人間でこそキャラクターが生きるし金田一は超お人よしの不憫男なのだ。

朝ドラとかでどうっすかこの題材? ヒロインいないけど。

 

ということで、私はずっと、この二人の関係を分かり易く面白く描いた漫画の登場を待ち望んでいるのだが、

現実というのは時たま、創造や想像の限界をはるかに越えて行くことがある。

この先、どんなものが出てきても、やっぱり、金田一京助自ら著した啄木本にはインパクト面でも萌え面でも敵わないのだろうなあ、という気がするし、どんなBL小説や漫画をも凌駕してしまう現実に落ちた萌えの一瞬のために、自分は日々生きているのかもしれない。