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センチメンタルの涅槃

読書、漫画、映画感想用。中二病と喪女をこじらせた24歳。吾妻ひでお、山田花子、真造圭伍、九井諒子などが好きです。

10月読んだ中で面白かったBL漫画5選・記録用(2016年10月)

漫画

 漫画好きと言いつつ、ほぼ全く漫画の話をしていない気がするので、取り急ぎ、2016年10月に読んだ(10月発売とは言っていない)中で、面白かったBLまとめ。

どれも如何にも、「あ~ナタリーとかに取り上げられそうな感じのやつね」って感じのチョイスだが、そうだよ!! 私は如何にもナタリーとかに取り上げられそうなBLが好きなんだよ!!! (でも一番好きなBL作家は日高ショーコです。「リスタート」の新装版は勿論買って、やはり素晴らし過ぎたのでまた自宅にて日高ショーコ祭り(※一人)を開催しましたよ)

 

 

『耳鳴りとめまいと悪寒について』湖水きよ (徳間書店)

 

「学園ハンサム」ではないが顎で人を殺せそうな攻め、と女の子と見紛うキラキラ感な受け、みたいな時代と比べると、最近のボーイズラブ漫画の表紙は随分オシャレになったもんだとか思うわけですが、それゆえ、結構、表紙はサブカル風でハイセンスなのに本編はクソつまらない、むしろキラキラBL未満のただの技術不足・下手くそっぷり、みたいな「表紙詐欺」に遭遇する確率も高くてビクビクしている。

ビクビクしている、のだが、この『耳鳴りとめまいと悪寒について』は、表紙の色彩の鮮やかさ、文字フォントのオシャレさ、タイトルのセンスの良さに負けず劣らずちゃんと中身も凄く面白かったので良かった。

煽りとかあらすじの書き方は売るために敢えて俗っぽい感じにしてはいるんだろうけど、実際読むと、所謂、BL世界における、「取立て屋ヤクザと借金に追われる受け」モノのイメージとは一線を画していることが分かる。

 

恋愛のようなそうでないようなでも二人が惹かれあい互いに救済しあい互いを必要とする事にはこの上なく 必然性がある、男同士ゆえの“恋愛未満恋愛以上”、甘々一辺倒でない攻めと受けの関係の描き方、台詞運び、恋愛パート以外の、お仕事&推理(?)ドラマ構成も素晴らしいながら、

 

「人に触れば、失くした物の在り処がわかる能力持ち」の受け、という一見突飛に思える設定も、ちゃんと、二人の関係性と必然性、本編で描かれるテーマにきちっと絡んでいて、「良い文学はメタファーの使い方が上手い」を日頃信条にしている私のツボを突くわ突くわ。

 

亡き父が残した借金に追われる受けは、取り立て屋のヤクザに、「組の金を横領したままトンズラしたので、意識不明になるまでボコられた男」から金の在り処を読み取れないか、うまくいけば借金チャラにしてやる、と持ちかけられる。

その際に、特定が上手くいかない理由として提示される、

「金は組のもので男のものではない。だからどんなに男が金を呼んでも金の方が男に応えない。ゆえに在り処を特定できない」

という、受けの能力設定が、物語のテーマと二人の関係性が生まれる過程に機能していくのである。

 

父はなく母に捨てられ養護施設で育った攻め、同じく、離婚した両親どちらともから引き取られなかった受け、

 

「どんな気分だよ、他人が誰かを呼ぶ声とそれに必死に応える声を端から聴くだけってのは」

「…最悪だ」

「だろうな」

 

誰も自分を必要としないなら自分も誰も必要としないことにした二人は、初めて、同様の感覚を分かり合える相手と出会い、だからこそ、互いを、「必要とした」のだ。

 

更に、この能力設定が、伏線として、後半のどんでん返し(という言い方をするとあれだが…)のキーになっている展開も、普通に、ドラマとしてゾクっとするほど。

10月読んだBL漫画の中では一番お勧め。

 

 

『猫背が伸びたら』大島かもめ (幻冬舎コミックス)

 

GUSHpecheの女装特集↓で、絵柄・作風・女装というエッセンスの使い方、物語構成のレベル、読了後の情緒、どれをとっても一際異彩と異才を放っていた短編を読んで以来、個人的

「もっと売れていいBL作家暫定ナンバーワン」

に君臨した大島かもめ先生

私の記憶力の限界により電子BLの短編って、ほぼ「読んだ瞬間にどんな話だったか忘れる」が、大島かもめ先生のはめちゃくちゃ強く印象に残っていて、今でもこのアンソロジーに載った短編が一番傑作だと思っているので、もうつべこべ言わずとっとと先に読んで欲しいんだが、

 

ルチルから出た新刊もいいっすね~

 

 「君はイケメンだからいいね~」と周囲にやっかまれたり、容姿の良さを起因とする過去の或るトラウマ故に、どうせ自分なんて、と卑下する癖がついてしまったネガティブイケメンが、自分とは正反対の、明るく社交的な男前に惹かれていくが…という、

プロットだけ見ると単純といえば単純な物語ではあるのだが、なんというかね~台詞やモノローグ、登場人物の心の機微なんかに節々に現れる、これはもう作家固有の、“ひねくれ感”(洞察力、と言ってもいいが)がいいんですよねえ、大島かもめ先生は。

 

たとえば、ネガティブな主人公・ジョージが、自分のネガティブさについて語るモノローグ、

“子供の頃から容姿の事を言われるたび卑下する癖がついていた。何の苦労もせず手にしたものは長所にはならないようだ。顔が良いと言われて喜んじゃいけない。彼らの言うそれは褒め言葉ではないのだから。言葉というのは不思議なもので口に出すたび自分がその言葉にふさわしい人間になっていく”

この、「何の苦労もせず手にしたものは長所にはならない」とか、いいじゃないですか。普通に考えたら、イケメンがネガティブになるわけねーだろってある種フィクションの嘘的しらけ感が出そうなところを、ちゃんと、納得できるキャラクターを作り上げるための言葉になっているわけである。

 

 あと、やっぱ絵というか、いや絵は決して、綺麗なBLBLしたものではないのだけど、でもやっぱり「漫画」がうまい。

BL界に於いては一発で、「あ、○○さんの絵」と判別できる独自の画風を持っているのはめちゃくちゃ強いのは言うまでもないとして、何となく岩明均・イズムにも通ずる、別に笑わせたいわけではないはずなのに、妙にトボけた面白さがあるというか。

何でここにこの表情?!(このコマ!?)みたいな、絵をぽんと持ってきてたりして、それが妙に印象に残っちゃったりするのだ。

そういう漫画が描けるのってやっぱ天性の才能なわけで、ゆえに、今後もっと売れていい作家個人的ナンバーワン、いいから短編既刊全部読め!!

 

 

『MODS』ナツメカズキ (東京漫画社)

 

最近流行りの作家だし、本屋のBLコーナーでは平積みされているので今更私が言及するまでもないから短めに述べるが、やっぱかっこいいっすよね~~これぞ、東京漫画社!って感じ。

絵柄からも台詞からもギリギリのところで危うく生きる男の色気が溢れ出しまくり、無骨ながら実は世話焼き系の攻めと、稀有な色気とカリスマ性を持ちながら、放っておくとすぐに彼岸側にいきそうな振り回し破滅型(尾崎豊型と言うべきか…)の受け、という組み合わせも萌えるが、この画像にはないものの、編集者のセンスが問われる帯のコピーもぐっとくる。

 

“白く零れ落ちる、空っぽの愛だけをくれ”

 

是非どっかで真似したい!(機会があるのかは別にして…)

 

また、 男娼という舞台設定が単なるBLのための舞台装置に留まっていないのもいい。

ある種これは、“貧困の再生産”から抜け出す物語というか、クズ親と劣悪な家庭環境のせいで、「自分は一生ウリしかできない」という呪縛から逃れられなかった受けが、攻めに出会うことで、「抜け出そう」と思えることができた物語である。

ポイントは、所謂、借金持ちとか男娼系BLにありがちな感じの、「(強い力や金を持った)攻めによって、抜け出させてもらう」話ではなく、受けが、攻めと出会うことで、「抜け出そう」と決意する、というあたり(まあそう思えるようになるまでにも二葛藤くらいあるのだが…)

 

山内マリコの小説に、

“私はあなたの運命の輪の一つかもしれない。

 あるいは、あなたがすべきことの扇動者。 ――ドリュー・バリモア

という一節が引用されている話があるのだが、まさに、BLの醍醐味とは、「彼は、彼がすべきことの扇動者」であることなのだなあと思う。

 

 

『グレーとブルーのあいまで』糸井のぞ (プランタン出版)

 

内容も勿論面白いし、攻めも受けも両方割と強気な性格で、「ガキはクソして寝ろ」「あんたこそ徘徊してるって通報される前に帰ったら?」「お子様」「ボケ老人」とマウンティングし合うような関係も好みなのだけれど、こういうタイプのボーイズラブってかなり珍しいんじゃないかなあと思ったので入れた。

自分の美貌を武器に奔放に生きてきた男子高校生が、50過ぎの色気のあるおじさんにぐらりと来る話なのだが、このタイトルは、「グレーとブルーのあいまで」つまり、グレー=人生の終盤に差し掛かって色あせてきた世代 ブルー=今まさに青春を謳歌している青臭く若い世代 の合間にいる、30代の男たる主人公を指しているのに、だがこの中年男は恋愛関係には直接絡まないのである。

 

しかし、そんな中年男・甲太郎は、「あのジジイに認められるようないい男になりたい」と、自己や他者に対して適当に生きてきた自分をはじめて見直そうとしている教え子の小夜谷と、小夜谷の若さに飲まれそうになりながらも、自分の築き上げた人生がぱっと壊されてしまうかもしれない怖さから、いまいち一歩踏み込めないでいる義父の庚子さんの両方を、見守っていく、

まさしくこれは、「グレーとブルーのあいま」にいる男の物語なのだ。

 

排他性が強く閉じた二者関係を描くことが多いBL界に於いて、恋愛には絡んでこない、しかし両方と強く関係している人物を主点に置いて物語を展開するってパターンって殆ど無いはずだが、でも、日頃、「俺とお前以外は全部モブ」みたいなボーイズラブ界のお約束世界に辟易している身としては、こういうのもっと増えるといいなあと思った。

いや、雨宮兄弟のくだりで散々語ったように、私が割と、三者関係マニアってのもあるんですけど…

 

 

『仰げば恋し』ココミ (aQtto!・2016年11月号)

 

 

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 まだ単行本は出されていないようだが、個人的に、今後の活躍注目度高し。

 BLの短編って、出会って互いに好きになってヤってって、トレンディドラマだったら1クールかかる話をたったの20数ページに収めないといけなかったりして、だから大抵、“えっ、なんで好きになった!?”的、唐突感が拭えない作品が多かったりするものの、だからといって、キス一つせず終わりでは、“えっ、そんだけ?”と、BLを求める人にとっては物足りなかったりする。

なので、面白く、かつその場限りのズリネタではなくちゃんと印象に残る短編BLって結構難しいのだが、

ココミさんは、短い中で、“男同士が惹かれあう物語”が描ける作家さんだと思う。伏線や要素の張り方とそれらの線の繋げ方もうまい。(最初と最後がつながる、みたいな話のつくり方好きなんすよ私は…)

 

aQtto! 2016年11月号に載っていた、「仰げば恋し」は、

試合の大事な場面でゴールを失敗してしまったことで、憧れの先輩からの「後は頼むな」という言葉を果たせなかったことを気に病んでいた主人公が、

卒業後、バイト先の居酒屋で当の先輩と再会する話なのだが、

こういう、恋愛未満憧れ以上の関係ね~~キュンとしますよね~~散々、ヤクザだ男娼だみたいなBL紹介してきてなんですけど~~これぞ青春抒情って感じですよ

恋が動き出す予感、というところで終わらせる余韻の残し方も憎い! 

 

これは持論だが、 やはり、男同士の深い(萌える)関係性には、相手に対する“憧憬”のほかに、というかその裏返しとして、“引け目”ないしは“劣等感”が必要なのだと思う。

単なる好意よりも強いマイナスの感情が転じる執着こそ、代替不可能な唯一無二の関係となり得る(ように見える)、少年漫画の同人なんかで、単に仲良しこよしの二人よりも、互いに敵対し合っていたり喧嘩が多かったり正反対のものを持っている組み合わせの方が人気なのもそういう理由なんじゃないかと。

この話の場合は、そこまでではないにしろ、“自分は彼の言葉を果たせず、部活から逃げた”という引け目が物語のエッセンスになっていて、だからこそ、そのマイナスが何らかのターニングポイントで、ぐっと、恋に転じるときの振れ幅が、ドラマを生み出すのだ

 

とまあ、序盤に出てくる台詞を最後に回収する構成、短い中で、無理のない感情の揺れ動きを描いたり、過去と現在の交錯によって物語に深みを与える力量、短編BLのお手本のような話だと思った次第である。